卓話
2025年1月
卓話『日加関係とインド太平洋地域戦略』2025年1月20日
駐日カナダ大使 兼 インド太平洋地域特使 イアン・G・マッケイ様
駐日カナダ大使のイアン・マッケイです。本日はこのような機会をいただきありがとうございます。本日はわたくし自身、そして駐日カナダ大使およびインド太平洋地域特使としての経験と、日韓関係についてお話をさせていただきたいと思います。
わたしはカナダの西海岸ブリティッシュコロンビア州の小さな町、ペンティクトンで育ちました。ロータリークラブの会員であった父は毎年世界中から交換留学生を受け入れており、子どもの頃に日本人の留学生の温かさや親切さに触れ、いつか自分も日本との交換留学生になりたいと思い、高校生の時にロータリークラブの交換留学プログラムに応募して、山口県下関市で10ヶ月間ホームステイをしながら地元の高校に通いました。その後バンクーバーの大学で政治を学び、1985年につくば万博のカナダ館でスタッフとして働きました。1987年から10年間は東京の金融機関に勤め、ニューヨークやロンドンに駐在後カナダに帰国してからは、長年に亘り公共政策や政治の分野に携わってきました。その中にカナダと日本のTPP最終交渉における首相特使の職務が含まれていたので、2021年に駐日カナダ大使として着任した際には、多くの日本政府の方々がすでにわたしを知ってくれており、スムーズに仕事を始めることができたと思います。
カナダと日本の関係は過去96年間様々な形で発展してきています。政治、貿易、投資関係はもとより、人と人の繋がりも強固となりました。観光や交換留学を通じた人的交流は、わたしたちの多くの共通点を思い出させてくれます。たくさんの方々が、ナイアガラの滝、赤毛のアンの家、ロッキー山脈を訪れたことで、カナダという国や人に一層親しみを持つようになったと言ってくださいます。スポーツを通じた交流も長く、日本代表ラグビーチームの初の海外遠征先は1930年のカナダでした。その2年後にはカナダの代表チームが日本を訪れ、1932年2月10日に東京ロータリークラブ主催の昼食会に出席しました。2019年ラグビーワールドカップ日本大会では、カナダ代表チームが台風被害にあった釜石市で土砂を取り除くボランティアをしました。また多くの日本フィギュアスケーターたちは、カナダ人コーチの元カナダで練習をして、オリンピックや世界選手権でメダルを獲得しています。柔道は幅広い世代で人気が高く、1930年代の嘉納治五郎氏による3度の訪問により、カナダ柔道は大いに盛り上がり発展しました。出口姉妹のオリンピック出場と、出口クリスタ選手の金メダル獲得は記憶に新しいですが、カナダで初めて道場が開かれてからちょうど100年であったことを思うと、一層感慨深いものがあります。
音楽を通してカナダに親近感や懐かしさを感じてくださる方もいます。オスカー・ピーターソン、グレン・グールド、ニール・ヤング、ラッシュ、若い世代ではドレイク、ザ・ウィークエンド、ジャスティン・ビーバー、ショーン・メンデスといったアーティストたちが多くのファンを魅了してきました。カナダは世界第3位の映画やテレビ産業があり、エミー賞を総なめにした「SHOGUN 将軍」はバンクーバーで撮影されました。主演の真田広之さんは、「バンクーバーは侍ドラマを作るには完璧な場所だった」とおっしゃっていました。
日本とカナダの間には「自由で開かれたインド太平洋に資する日本及びカナダが共有する優先協力分野」があります。
1.法の支配
2.平和維持活動、平和構築及び人道支援・災害救援
3.健康安全保障(ヘルス・セキュリティ)及び新型コロナウイルス感染症への対応
4.エネルギー安全保障
5.自由貿易の促進及び貿易協定の実施
6.環境及び気候変動
この6つの優先協力分野のうち、よくご質問頂くのは法の支配です。カナダ国防省はインド太平洋地域に海軍のフリゲート艦3隻を配備し、台湾海峡での瀬取りや北朝鮮への違法な物資輸送の監視報告など、日本をはじめとする多国間ミッションに参加しています。日本との二国間協力では、北海道の新千歳空港を拠点に、空から違法・無規制・無報告の漁業を監視しています。日本近海での違法漁業には、船舶を接近させて対処しています。
エネルギー安全保障については、三菱商事と共同で進めてきた世界最大級のLNG液化天然ガスインフラ計画により、相当量のLNGが安定的にカナダから日本までわずか8日間で輸送されます。カナダは中国を除けば電気自動車用電池の生産に必要な全ての重要鉱物が採れる唯一の国です。昨年ホンダと旭化成による大規模な投資が発表されましたが、カナダは安全で信頼性が高く、持続可能な電気自動車サプライチェーン全体の供給源として認識されています。資源大国ですが世界トップクラスの厳しい二酸化炭素排出規制があり、国内消費のうち約70%を再生可能エネルギーで賄っています。炭素税も課されており、低炭素社会の実現に向けた政策やシステムが様々導入されています。
この二国間関係と日本政府と同盟国が推し進めているインド太平洋地域の戦略は、当然ながら双方影響しあっています。
2022年11月にカナダが発表したインド太平洋戦略は、過去数十年間の外交政策における最大の転換でした。戦略は、安全歩調の推進、貿易とサプライチェーンの強化、人への投資と繋がりの創出、気候変動への対処と持続可能な未来の構築、活動的な外交的なパートナーシップを5つの柱としています。昨年はCPTPPの議長国として、各国の貿易協定利用拡大、スチュワードシップの維持、希望国に対する加盟への道筋の3つを経済の安全保障における議題の優先事項としました。加盟希望国は、これまでの貿易協定を遵守してきた実績や現CPTPP加盟国のコンセンサスを得ることが求められます。経済的圧力に対処するためのコミットメントや強靭なサプライチェーンの重要性は、周知の通りです。
人への投資と交流はインド太平洋戦略の第三の柱であり、その足掛かりとなる首相や閣僚レベルの外遊は、過去2年間で日本、韓国、ベトナム、マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイ、インド、中国を含む14か国にのぼり、通商大臣は過去1年間で7度通商代表団を率いてインド太平洋地域を訪問しました。学術の面では、カナダには自国民およびASEAN諸国出身の学生向けに1000以上の奨学金フェローシップが用意されています。現在、留学生の約60%がインド太平洋地域の出身者で、そのままカナダにて就職するケースも多く、引き続き多くの学生に選ばれていくでしょう。外交パートナーシップの一貫としてインド太平洋地域にある主要公館の外交官を増員しており、軍人、サイバーセキュリティ、貿易問題、地政学的動向、グローバルインテリジェンスに関するカナダの専門知識を活用する機会を増やしています。今年はG7首脳会合がロッキー山脈カナナスキスで開催され、大阪関西万博にカナダは主要国として参加します。
近年両国はあらゆる機会を通じて様々な重要課題において互いに協力し、互いのために歩み寄ってきました。両国はかつてないほど親密であり、今後も協力関係が強化されていくでしょう。
カナダのトルドー首相が3月9日に辞任しますが、同時に自由党が選出する新しい党首が首相となります。そして5月から10月までの間に総選挙が行われる予定です。本日1月20日はアメリカの新しい大統領の就任式ですが、新大統領がカナダからアメリカへの全ての輸出品に対して25%の関税を課すと脅していることはご存知のとおりです。このような措置は、カナダとアメリカが35年以上に亘って自由貿易協定を結んできたにも関わらず行われようとしています。この、アメリカによる違法行為はすべての国への警告と受け止めなければいけません。アメリカがカナダに対してこのような行動をとるのであれば、他の多くの国に対しても同じようなことをすると考えられます。
日本にとって最大のパートナーはアメリカかもしれませんが、カナダは日本にとって最も信頼できるパートナーであることをお約束いたし、本日の卓話を終わらせて頂きます。
ご清聴ありがとうございました。