東京六本木ロータリークラブ




卓話

2025年7月

卓話『旅する現代美術』2025年7月28日

森美術館特別顧問、キュレーター 南條 史生様

森美術館特別顧問、キュレーター 南條 史生様

皆様 こんにちは

わたしは70年代に国際交流基金に在籍しており、当時中東に日本の文化を出そうという企画提案をしました。民俗芸能に詳しい専門のディレクターを雇い、日本の民俗芸能のチームで、1時間半くらいのプログラムを作って中東の7か国を巡回しました。ですから中東に対して親しみがあり、森美術館の館長時代も、アブダビやドバイ、カタールなどの湾岸諸国の作家を中心に中東の現代美術展を開催しました。ということで、中東と私の関係は結構長いものがあります。

一番最近の話題は、ルーブル美術館がアブダビに分館を作ったことです。屋根はチタンでできており、中に入ると上に屋根が見えます。箱状のギャラリーの間は空気が外部と流通しており、建物が海に向かって開かれているので、通路と水が入れ子状になっている非常に変わった建物です。元々ルーブル美術館ですから、世界中の美術品があり、ローマ時代の彫刻やフランスの中世のゴブラン織り、日本の鎧、印象派ルノアールなど幅広く展示しています。レオナルド・ダ・ヴィンチまでアブダビに持ってきていて非常に驚きました。

この美術館はルーブルの分館ですが、実は最初の30年は美術館のスタッフを教育しつつ、世界中から作品を購入し、自分たちのコレクションを形成します。その間に展覧会作りや美術館運営の技術の指導、美術史教育を行い、スタッフが色々なことを学ぶ機会を創出する、という考え方です。30年経つと、自分で何でもできるようになりますから、そこでルーブル美術館は撤退し、そこにアブダビ国のナショナルミュージアムが残る、というスキームなのです。単純にフランスの持ち物を展示して自慢するわけではなく、教育しながら徐々に撤退し、その国のミュージアムを確立していくことを目指しています。ただし30年でフランスが受け取る金額は多額です。しかしその間フランス中の国有作品を貸し出しますという仕組みです。これはアメリカ的な文化植民地主義とは違い、非常に教育的、文化的な戦略だと思います。

わたしは、日本もこれと同じことを東南アジアの国に対してやるべきだったと思います。東南アジアに美術館を建てて管理運営システムを輸出し、日本的な美術館の方法論を根付かせれば、日本の文化を発信する時にもっとやりやすかったのではないかと思います。今からでも遅くはありません。OECDの開発途上国支援の予算を文化施設設立支援に向けて、文化的な補助事業をやるべきだと思っています。

チームラボは、テクノロジーを使った日本のメディアアーティストとして非常に有名です。今やチームのメンバーは400人いると言われています。彼らがアブダビ政府に招待され、彼ら自身の美術館を作りました。アブダビは他にもグッゲンハイム美術館と提携する予定にもなっています。地元の人は、ルーブルは過去、グッゲンハイムは現在、チームラボは未来のアートを象徴すると言っています。なるほどと思いました。

アラブ首長国連邦は7つの首長国でできています。その中で一番強いのは石油が出ているアブダビです。次に外国に対して開いて経済活動を活発に行ったドバイで、このエリアの中では最も国際化しているといわれています。ドバイはアートフェアを開催しています。アートフェアは見本市のようなもので、ブースを借りて世界中のギャラリーがお店を出し、即売会をします。一街路全部がギャラリーで埋まっている都市開発も為されています。近隣諸国のインドやイランの作家がたくさん出ていることで有名で、一部のギャラリーではテクノロジーを使った最先端の美術も参加しています。中東のエリアは現代美術は遅れていると思われがちですが、全くそうではなく、日本より先に進んでいるのではないかと思われます。

長いことこのエリアに出入りしていましたが、昨年の春に40年ぶりにサウジアラビアに行きました。サウジアラビアでもいまや莫大な金額が現代美術につぎ込まれていて、ギャラリーと美術館がたくさんあります。展覧会もひとつではなく、「光の祭典」、「リヤドビエンナーレ」なども開催されており、これはその様子で、巨大な建物に巨大な作品がたくさん出ています。広場自体も全体がアートになっています。発想が非常にダイナミックです。この古い工場地帯はジャックスと呼ばれています。空間のスケールが日本とは全然違います。砂漠で行われる「デザートX」はもっともユニークです。

アラブ首長国連邦の中でドバイの隣に位置しているシャルジャは非常に文化的な国です。古い街区は白い珊瑚の粉が入った漆喰で作られていて清潔な感じです。今から10年以上前にビエンナーレが始まりました。美術館も古い建物の転用で勝負しています。

ヨルダンも、イスラエルとアラブ首長国連邦の間の国に比較的大きな国土を持っていて、文化的には非常に豊かな国です。個人の財団がやっている美術館が丘の上にあり、バルコニーに立つとヨルダンの首都アンマンの町が見えます。この財団の創始者は元々アーティストでもあり、森美術館での現代美術展に出展をお願いしたことがありました。自然の映像を撮っていた方なのですが、その時にドキュメンタリー作品を持ってきました。これまでずっと黙って自然の風景を撮ってきましたが、もう黙っていられないので、わたしが言いたいことを作品にしましたといいました。それはイスラム、ユダヤ教、キリスト教と、パレスチナの映像でした。戦争そのもののシーンなどはなく、すべての宗教がバランスをとって写っているように見えました。それで作品に入れたのですが、しかし後からイスラエル大使館から失礼だと文句が入りました。ということで、そういう長い付き合いのあった方がやっている美術館です。通常は美しい風景が見えるいい美術館だと思っているのですが、最近ギャラリーを別棟で作り、そこでは完全に政治的な作品が展示してあります。あの地域ではアートも、どうしても政治的にならざるを得ないものがあるのだと思います。

またヨルダンはペトラという遺跡で有名です。絶壁を削り出して建築の形を作っています。中東の3大遺跡のひとつで、他はパルミラ、ペルセポリスです。中東を旅するということは歴史的遺物・遺跡を見ることと言ってもいいと思います。

その圧倒的な過去と対峙して、今生きている我々は何をするべきなのかいう問いもあります。私は、それに対しては、現代美術しかないと思っています。過去のものを今作ることはできません。わたしたちは今日、京都や奈良の過去の歴史を作ることはできず、今作れるものを作ることしかできません。わたしたちは自覚して、意識的に明日の京都・奈良を作らなければいけないのです。しかししばしば我々は古いものを守ればいいと思っている。けれどそれでは充分ではないのです。

中東の世界に行って過去の文化と現在の文化ということを目の当たりにすると、やはり過去と現在、そして未来を俯瞰しなければならないと思えてきます。そして今わたしたちが何をするべきかを考えていかなければいけないとわたしは思います。

現在と過去の文化、そして現代美術の意味というものを少しでも考えていただけたら光栄です。

ご清聴ありがとうございました。



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